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宮崎地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決

原告

みやざき・市民オンブズマン

右代表者

神崎千香子

右訴訟代理人弁護士

西田隆二

真早流踏雄

織戸良寛

松田公利

松田幸子

被告

宮崎県監査委員

大石剛一郎

外三名

右訴訟代理人弁護士

佐藤安正

右指定代理人

興梠徹

外一名

主文

一  被告が原告に対し平成八年三月二二日付けでした公文書の部分開示決定処分(平成九年一二月一六日付け異議決定により変更された後のもの)及び非開示決定処分のうち、別紙文書目録1記載の公文書を非開示とした部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が原告に対し平成八年三月二二日付けでした公文書の部分開示決定処分(平成九年一二月一六日付け異議決定により変更された後のもの)及び非開示決定処分のうち、別紙文書目録1及び2記載の公文書を非開示とした部分を取り消す。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が被告に対し、宮崎県情報公開条例(平成一一年宮崎県条例第三六号による改正前の平成元年宮崎県条例第三号。以下「本件条例」という。)に基づき、平成六年度の宮崎県監査委員事務局の旅費(県外分)及び食糧費に関する文書並びに出勤簿等の開示を請求したところ、被告が、右各文書の一部を非開示とする決定をしたため、原告が、右非開示決定処分は非開示事由がないにもかかわらずされた違法な処分であると主張して、右各処分の取消しを求めた事案である。

二  前提となる事実〈省略〉

三  争点〈省略〉

第三  当裁判所の判断

一  争点1(平成六年五月一六日付け出張先秋田県田沢湖町に係る復命書の公文書該当性)について

1  本件条例に基づく開示の対象となる公文書は、本件条例二条一項により規定されているところ、同項にいう「実施機関が作成し、取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は取得したことを意味すると解することが相当である。

2  右復命書の表紙及び添付書類は、同復命書表紙に記録された復命者が地方職員共済組合の監査員を対象とした研修会に参加するために出張した際に作成又は取得された文書であることがその記載内容に照らし明らかである。

右出張に係る旅行命令書(甲九の1)の記載内容に照らすと、右復命者は、被告事務局の職員の資格ではなく、地方職員共済組合宮崎県支部の組合員(監査員)の資格で右研修会に参加し、メモをし、資料の配布を受けたことが認められる。そして、同支部が被告から独立した組織であることは明らかである。

したがって、右復命者が右講習会においてメモした文書や配布された資料で構成された当該復命書の添付書類は、実施機関(被告)の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は所得したものであるとはいえないから、本件条例二条一項所定の公文書に該当しない。

3  他方、当該復命書の表紙は、その記載内容に照らして、復命者が、被告事務局の職員として、その上司に宛て作成したものであることが認められる。

確かに、前記認定のとおり、復命者が、地方職員共済組合宮崎県支部の組合員(監査員)として前記研修会に参加し、メモをし、資料の配布を受けたことからすれば、当該出張に係る復命書(表紙)を被告事務局の職員として、その上司に宛て作成したことは誤りであったというほかないが、そうであっても、右復命書の表紙は、実施機関(被告)の職員が自己の職務の範囲内において作成したものであることに変わりはない。

よって、右復命書の表紙は、本件条例二条一項所定の公文書に該当する。

二  争点2(本件条例九条二号該当性)について

1  本件条例九条二号が個人情報を原則として非開示としているのは、個人に関する情報がみだりに公にされることのないようにとの配慮に基づくものであり(本件条例三条)、プライバシーを中核とする個人の権利、利益を尊重する趣旨であると解される。

もっとも、同号の規定の文言からすると、非開示となし得る対象を明確にプライバシーに関係すると認められる情報に限定する趣旨であると解することはできず、個人の内心、心身の状況、家庭状況、経歴、社会活動、財産状況など一切の個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報を原則的に非開示としたうえで、ただし書において、開示しても個人の権利利益を侵害せず不開示にする必要のないもの、及び、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもののうち一定の情報を、例外的に開示事項としたものであることが明らかである。

このように、本件条例が開示の範囲について形式的に判断しうる規定の構造を採用したのは、プライバシーという概念が極めて多義的かつ不明確なものであるため、このような概念を用いて開示情報の範囲を画する判断をすることは著しく困難であり、このような判断を予定することにより、制度の安定的運用が害されることを懸念したことによるものと解され、個人のプライバシーに関係しないことが明白な情報についてまで保護することを意図するものではないと解される。そして、個人に関する情報で、特定の個人が識別され、または、識別され得るものであっても、個人のプライバシーに関係しないことが明白な情報については、これを開示の対象としても、公文書開示制度の安定的運用を阻害するおそれは少ない。

したがって、個人のプライバシーに関係しないことが明白な情報は、本件条例九条二号の解釈上、同号所定の非開示情報に該当しないと解するのが相当であり、これに反する被告の見解は採用し得ない。

他方、宮崎県民の公文書の開示を請求する権利は、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県民参加の開かれた県政を一層推進することを目的として、本件条例により創設された権利であり、その権利の内容も本件条例の定めるところによって定められるのであって、右権利が憲法上の権利である知る権利の具体化されたものであることを前提に、本件条例の運用にあたり非開示事項を限定すべきであるとする原告の見解は採用できない。

2  公務員の職務遂行に係る情報について

本件条例九条二号に該当するとして非開示とされた情報のうち、旅費関係文書中の復命書表紙に記録されている講演の講演者の職名及び氏名、食糧費関係文書に記録されている懇談会の相手側出席者の団体名、職名及び氏名、食糧費関係文書中の請求書の債権者に関する従業員氏名、並びに出勤簿の記載事項を除くものは、いずれも公務員の職務遂行に係る情報であると推認されるから、その情報の客観的性質に照らせば、原則として、当該公務員個人のプライバシーに関係しないことが明白な情報であると認めることができる。

また、右各情報を開示することにより、公務員の私生活に何らかの影響が生ずるおそれがあることの立証はない。

ただし、旅費関係文書中の旅行命令書及び旅費内訳書兼請求書に記録されている旅行者の住所及び行政職給料表の級号は、当該公務員個人の居住や収入という個人のプライバシーにも関係する情報であると認めることができる。

よって、本件条例九条二号の前記解釈によれば、公務員の職務遂行に係る情報と推認される前記各情報のうち、旅行者の住所及び行政職給料表の級号部分は同号所定の非開示情報に該当するが、その余はいずれも同号所定の非開示情報に該当しないというべきである。

3  公務員以外の講演者及び懇談会出席者に係る情報について

旅費関係文書中の復命書表紙に記録された講演の講演者、食糧費関係文書に記録された懇談会の相手側出席者には、私人も含まれていると推認される。

しかし、右講演は、前記のとおり、全都道府県監査委員協議会連合会が主催し、都道府県の監査委員及び同事務局の職員の研修を目的として公益的見地から開催されたものであり、また、右懇談会も被告が開催している以上公益的見地から開催したものと推認されるから、これらの講演ないし懇談会への出席は、個人の私的領域に属する事項とはいえず、いずれも当該個人のプライバシーに関係しない情報であると推認できる。

右推認を覆すに足りる事実、すなわち、懇談会の趣旨等から、当該懇談会への出席の情報が開示されることにより、出席者や講演者の私生活に何らかの影響が生ずるおそれがあることをうかがわせる事実の存在を認めるに足りる証拠はない。

よって、右文書部分に記載されている情報は、いずれも本件条例九条二号所定の非開示情報には該当しないというべきである。

4  出勤簿について

乙八号証及び乙二六号証により認めることができる出勤簿の記録事項のうち、職員の職名、氏名及び出勤時に押印した印影、出勤押印欄に記載された出張、研修、職務専念義務の免除、停職及び欠勤の記載、並びに、勤務すべき日数欄及び勤務した日数欄に記載された各日数(出勤、出張及び研修の各日数を含む。)は、公務員たる職員の勤務状況を記録したものであるから、公務員の職務遂行に係わる情報であり、本件条例九条二号所定の非開示情報には該当しないというべきである。

右以外の記録事項である、出勤押印欄に記載された年次休暇、公務災害休暇、結核療養休暇、介護休暇、特別休暇、休職及び代休日は、公務と直接かかわりのない私生活に関する情報であるから、本件条例九条二号所定の非開示情報に該当する。

被告は、出勤簿は、記載事項が容易に分離できない状況で混在しているため、部分開示(本件条例一〇条)の対象とならない旨主張するが、出勤簿の様式(乙八)からすれば、出勤押印欄とその他の欄の記載は明確に区分されていて容易に分離できる状態にあることが認められるから、出勤押印欄以外の部分の記載事項については当然に部分開示が可能であり、また、出勤押印欄については、前記非開示情報と開示対象情報が重なって記載されていて分離が困難な部分もあり得るが、当該部分とその他の部分とを分離することが困難であるとは認められないから、当該部分についてのみ部分開示の要件を欠くものとして非開示とすることができると解することが相当である。

三  争点3(本件条例九条三号該当性)について

1  本件条例九条三号の趣旨は、宮崎県作成の「情報公開事務の手引」(乙一五)によれば、自由な事業活動が認められている法人等又は事業を営む個人の正当な活動を保障する観点から、開示することにより、法人等又は事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報が記録されている公文書については非開示とすることを定めたものと解される。

本件条例は情報の開示について、開示を原則としつつ、開示に支障のある場合について具体的に非開示の事由を規定して開示を制限する構成をとっており、本件条例三条では、実施機関において、県民の公文書の開示を請求する権利が十分に保護されるよう本件条例を解釈し運用すべき旨規定している。そして、非開示事由についてみると、個人については、本件条例三条で、実施機関が個人に関する情報がみだりに公にされることがないように最大限の配慮をするよう規定し、非開示事由を規定する本件条例九条においても、同条二号において、何らかの利益侵害のおそれを要件とすることなく、特定の個人が認識、識別され得る情報を非開示事由としているのに対し、法人を主体とするその他の情報については、開示によって正当な利益が侵害され、又は事務事業に支障が生ずると認められることを要件として定めている。

本件条例の右のような構成からみれば、個人に関する情報以外の情報については開示の原則がより徹底されていると解されるから、本件条例九条三号以下の各号所定の利益侵害又は事務事業の支障等の要件があると認めるためには、抽象的な侵害等の発生の単なる可能性の存在では足りず、当該利益侵害又は事務事業の支障等の態様が具体的に想定され、かつ、その発生について相当程度に高度の可能性(蓋然性)が存在することの証明が必要であると解すべきであり、これに反する被告の見解は採用することができない。

なお、右侵害等の発生について明白性まで要するとすれば、当該侵害等の発生の予測は困難であることから、結果として、本件条例の右各号を規定した目的が確保されないことになりかねないから、原告の見解がこのような明白性を要するとする趣旨であれば、これを採用することはできない。

2  懇談会の接客業者等に係る情報について

(一) 名称、電話番号等

本件非開示情報のうち、予算執行伺中の懇談会場名、支出(払出し)調書中の債権者の番号、住所及び氏名、並びに請求書中の債権者氏名、代表者氏名、所在地、電話番号、FAX番号、印影及び店のグループ名は、いずれも当該接客業者の技術上ないし営業上のノウハウ等、同業他社との対抗関係上特に秘匿を要する情報ではなく、社会的信用に関わる情報でもないから、これらの情報が開示されたとしても、当該接客業者の競争上又は事業運営上の地位等に不利益が生じるおそれはなく、また、被告事務局が利用している事実が明らかになったとしても、そのことにより当該接客業者に何らかの不利益が生ずるとは想定できない。

なお、請求書には、本件非開示事項のほかに、請求金額、品名、数量、単価、奉仕料及び消費税等の請求明細等が記録されており、債権者氏名等を開示すれば当該接客業者の営業実態の一部が開示されることになるが、その結果として明らかになるのは、被告事務局という特定の顧客に対する特定の時点における個別的な営業実態にすぎないから、このような情報が開示されたとしても、当該接客業者の技術上ないし営業上のノウハウ等が明らかになることはなく、当該接客業者の競争上又は事業運営上の地位に何らか不利益が生ずるとは想定できない。

よって、予算執行伺中の懇談会場名、支出(払出し)調書中の債権者の番号、住所及び氏名、並びに請求書中の債権者氏名、代表者氏名、所在地、電話番号、FAX番号、印影及び店のグループ名は、いずれも本件条例九条三号所定の非開示情報には該当しないというべきである。

(二) 口座番号及び口座名義人

事業者が取引先との間の入出金に使用する金融機関に関する情報(取引金融機関、預金種別、口座番号、口座名義等)は、事業活動を行う上での内部管理に属する情報であり、その開示の有無、対象範囲は原則として当該事業者が決定することができる性質を有する情報であるものの、少なくとも当該情報は取引先に開示し、他者に知られることが予定されている情報であることからすれば、その開示により当該事業者が被り得る具体的な不利益な態様を想定することはできない。

したがって、本件において非開示とされた接客業者の口座番号及び口座名義人(被告は、当該接客業者の口座振替先の金融機関名、支店名及び預金種別については開示した。)は、開示によって事業者の利益を害すると認められる情報とはいえない。

よって、支出(払出し)調書及び請求書中の口座番号及び口座名義人は、いずれも本件条例九条三号所定の非開示情報には該当しないというべきである。

四  争点4(本件条例九条四号該当性)について

1  本件条例九条四号の趣旨は、宮崎県作成の「情報公開事務の手引」(乙一五)によれば、開示をすることにより、犯罪の被疑者、参考人、情報提供者等に生命、身体、財産等が侵害される危険が生じたり、あるいは、犯罪の予防、犯罪の捜査、行政上の義務違反の取締りのための円滑な活動が阻害されるなど、公共の安全と秩序の維持に支障が生ずると認められる場合に、これを防止するため非開示とすることとしたものと解される。

2  旅費受領代理人の口座番号について

旅費関係文書中の旅費内訳書兼請求書に記録されている旅費受領代理人の預金口座番号は、当該職員が個人的に開設した金融機関の預金口座の番号ではあるが、甲一〇号証の5ないし8によれば、旅費受領代理人の口座名義は、「カンサイインジムキヨクリヨヒダイリニン」と記載されている事実を認めることができ、同事実からすれば、右口座は専ら旅費の受領のみに使用されていると推認することができる。

よって、右口座が個人の財産状況に関する情報でもあるとする被告の主張は認められず、また、当該口座番号が開示されたとしても、直ちに、犯罪等に利用される蓋然性があるとも認めがたい。

よって、旅費関係文書中の旅費内訳書兼請求書に記録されている旅費受領代理人の口座番号は、本件条例九条四号所定の非開示情報には該当しないというべきである。

五  争点5(本件条例九条五号及び八号該当性)について

1  本件条例九条五号の趣旨は、宮崎県作成の「情報公開事務の手引」(乙一五)によれば、県の行政は、国等の行政と積極的に結び付き、国等との協力関係又は信頼関係のもとに執行されることから、開示をすることにより、これらの関係の継続的な維持と発展が損なわれると認められる情報を非開示とすることを定めたものと解される。

2  本件条例九条八号の趣旨は、宮崎県作成の「情報公開事務の手引」(乙一五)によれば、行政が行う事務事業にかかる検査、監査、取締り等の計画及び実施要領等の情報の中には、開示をすることにより、事務事業を実施する目的が損なわれ、または、公正かつ円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがある情報があり、かかる情報を非開示とすることとしたものと解される。

3  講演者に係る情報について

旅費関係文書中の復命書表紙に記録された講演は、前記認定事実のとおり、全都道府県監査委員協議会連合会の主催で、都道府県の監査委員及び同事務局の職員の研修を目的としたものであるから、そこで講演したことが公開されたとしても、当該講演者に不利益を与え、不快、不信の感情を抱かせることや、以後その者が講演を拒否することは考えられない。

したがって、右講演の講演者の職名及び氏名は、本件条例九条五号及び八号所定の非開示情報のいずれにも該当しないというべきである。

4  懇談会出席者に係る情報について

食糧費関係文書には、懇談会の相手側出席者の団体名、職名及び氏名が記録されているが、一般に、懇談会の中には、①事務事業の施行のために必要な事項についての内密の協議を目的として行われるものと、②それ以外の事務事業を目的として行われるものとがあり得る。

そして、①の懇談会に関する公文書を開示し、その記録内容等から懇談会の相手方が明らかになると、相手方において、不快、不信の感情を抱き、また、懇談会の内容等につき様々な憶測等がされることを危惧するなどして、以後、懇談会への参加を拒否したり、率直な意見表明を控えたりすることも予想される。そうであれば、このような文書を開示することによって、関係当事者間の信頼関係を損ない、当該又は同種の事務事業の公正かつ適正な執行に著しい支障を生じさせる蓋然性があることは否定できない。

他方、②の懇談会に関する公文書を開示しても、右のような不都合な事態が生ずることは考えがたい。

そうすると、懇談会の相手側出席者の団体名、職名及び氏名が記録された公文書が、本件条例九条五号または八号に該当するというためには、被告の側で、当該懇談会が事務事業の施行のために必要な事項についての内密な協議を目的として行われたものであることを具体的に主張、立証する必要があるというべきところ、本件において、被告は、右の点について主張、立証がない。

したがって、食糧費関係文書における懇談会の相手側出席者の団体名、職名及び氏名は、本件条例九条五号及び八号所定の非開示情報のいずれにも該当しないと認めるべきである。

5  平成六年五月一六日付け出張先秋田県秋田市(秋田県庁)に係る復命書の添付書類

(一)  右復命書の添付書類のうち、①秋田県監査委員の監査状況について、②監査執行状況調査表、③平成六年度監査の重点事項、④行政監査について、⑤監査結果の措置基準には、前記のとおり、秋田県監査委員の監査の執行体制、執行方法、基準等監査に関する内部情報が記載されており、これらの情報が開示されて明らかになれば、その情報を利用して監査の趣旨を潜脱して監査に対処しようとする者が出現して、秋田県監査委員の監査に支障を生じる蓋然性があると認めることができる。よって、このような文書を被告が開示すれば、秋田県監査委員との信頼関係を損う蓋然性があるものと認められる。

この点について、原告は、監査実施方法及び対象等が事前に明らかになっても、適正な監査をすることに支障はなく、却って、これらの事項を事前開示し、監査の相手方に対し、適正な経理の要点を教示することが、適正な経理の実現に寄与できる旨主張するが、監査の執行方法は監査機関の裁量で決められるべき事項であり、秋田県監査委員が原告主張の方法を当然に採用すべき根拠はないから、原告の右主張は採用できない。

したがって、右①ないし⑤の各文書は、本件条例九条五号所定の非開示情報に該当するといえる。また、右②の文書は、その内容が、前記のとおり、宮崎県における監査の執行体制や執行方法等監査に関する情報を含むものであるため、これが開示されて明らかになれば、同様に監査に支障を生じる蓋然性があると認めることができるから、本件条例九条八号所定の非開示情報に該当するといえる。

(二) 前記復命書の添付書類のうち、秋田県企業局の業務概要には、前記認定事実のとおり、秋田県企業局の観光施設事業会計における長期資金収支見込や資金運用事業会計からの補助額等の推移等が記載されているが、これらの情報が開示された場合に、秋田県企業局の事務事業に支障が生じ得るかどうかはこれらの情報の内容自体からは明らかではなく、また、同種情報が宮崎県では非開示扱いとされている(乙二六号証七三頁)事実があったとしても、秋田県における扱いは不明であるから、右文書を開示することにより右文書を提供した秋田県監査委員との信頼関係を損なう可能性の存否自体明らかではない。

したがって、右文書は、本件条例九条五号及び八号のいずれにも該当しないと認めるべきである。

六  まとめ

以上によれば、本件非開示情報のうち、(一)平成六年五月一六日付け出張先秋田県田沢湖町に係る復命書の添付書類は、本件条例二条一項所定の公文書に該当せず、(二)旅行命令書及び旅費内訳書兼請求書に記録されている旅行者の住所及び行政職給料表の級号は、本件条例九条二号所定の非開示情報に該当し、(三)平成六年五月一六日付け出張先秋田県秋田市(秋田県庁)に係る復命書の添付書類中の、①秋田県監査委員の監査状況について、③平成六年度監査の重点事項、④行政監査について、及び⑤監査結果の措置基準は、同条五号所定の非開示情報に該当し、②監査執行状況調査表は、同条五号及び八号所定の非開示情報に該当し、(四)出勤簿のうち、出勤押印欄に記載された年次休暇、公務災害休暇、結核療養休暇、介護休暇、特別休暇、休職及び代休日は、同条二号所定の非開示情報に該当し、いずれも開示しないことができる情報があることが認められるが、その余の部分については、いずれも同条の開示しないことができる情報には該当しないから、これらの部分を非開示とした本件非開示決定処分は違法である。

第四  結論

よって、原告の請求は、本件非開示決定処分のうち、別紙文書目録1記載の情報を非開示とした部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、同目録2記載の情報を非開示とした部分の取消請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・中山顕裕、裁判官・中村心、裁判官・菊井一夫)

別紙

文書目録〈省略〉

更正決定〈省略〉

別紙本件条例の内容(本件に関連する部分)

第1条(目的)この条例は、県民の公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに、公文書の開示および情報提供の推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県民参加の開かれた県政を一層推進することを目的とする。

第2条(定義)この条例において「公文書」とは、実施機関が作成し、又は取得した文書、図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)ならびにビデオテープであって、決裁又は供覧の手続きが終了し、実施機関が管理しているものをいう。

(2項略)

第3条(解釈及び運用)実施機関は、県民の公文書の開示を請求する権利が十分に保障されるようこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

第9条(開示をしないことができる公文書)実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記載されているときは、当該公文書の開示をしないことができる。

1号 (略)

2号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報

イ 公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報であって、当該情報の開示が個人の権利利益を侵害しないと認められるもの

ウ 法令等の規定により許可、認可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報であって、人の生命、身体又は健康の保護その他の公益上の理由により開示することが必要と認められるもの

3号 法人(国及び地方公共団体その他の公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示をすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法人等又は個人の事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するため、開示することが必要と認められる情報

イ 法人等又は個人の違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するため、開示をすることが必要と認められる情報

ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上の理由により開示をすることが必要と認められるもの

4号 開示をすることにより、人の生命、身体、財産等の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査、行政上の義務違反の取締りその他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずると認められる情報

5号 県の機関と国又は他の地方公共団体その他の公共団体(以下「国等」という。)の機関との間における審議、協議、依頼等に係る事務事業に関する情報であって、開示をすることにより、県と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められるもの

6号 県の機関又は国等の機関が行う事務事業に係る意思形成過程における審議、協議、調査、試験研究等に関する情報であって、開示をすることにより、当該事務事業又は同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められるもの

7号 (略)

8号 県の機関又は国等の機関が行う事務事業に係る検査、監査、取締り等の計画及び実施要領、争訟、交渉等の方針、渉外、入札、試験の問題その他の情報であって、開示することにより、当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの

第10条(部分開示)実施機関は、開示の請求に係る公文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において、当該部分とそれ以外の部分とが容易に、かつ、当該請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、当該情報に係る部分を除いて、当該公文書を開示しなければならない。

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